LOGIN「私の目の黒いうちに少しずつ財産は果歩さんと孫娘に譲渡するよ。 果歩さんとは養子縁組もする。 私の死後お前には慰留分がいくだろうが、なるべく小さな額になるよう 弁護士に相談するつもりだから、そのつもりでいろ。 外国から女を呼び寄せたりして、どれだけ金を注ぎ込んでるのか知らんが、 私の金がそんなことに使われるのは心外だからね、アテにしないでくれ。 収入も無いのに馬鹿なことばかりしてると、不安定で不幸な老後 まっしぐらだぞ。 よく考えて行動しろ、いいな! 私は仮に果歩さんとお前が離婚して他人になっても養子縁組した 果歩さんのことは娘としてこの先も接するつもりだ。 また将来果歩さんが誰かと再婚したとしてもな、娘として 先方へ嫁がせるつもりでいる。 それくらいの覚悟で果歩さんとは親子になるつもりでいるから…… 心しておいてくれ」 「息子の俺は切るってことなのか? 浮気くらいで? 彼女はたまたま旅行でこっちへ来てるだけで……その……別に」 「問答無用! 全てバレてる。 見苦しい言い訳は止めなさい! 経済的に苦しくて惨めな老後が嫌なら、果歩さんと碧《あお》を 大事にして浮気心はこの先封印し、真面目に働けばいいだけのこと。 お前に足りないのは倫理観と想像力だ。 果歩さんから離婚を言い出されないのをいいことに浮かれて好き勝手して いるようだが、果歩さんはたまたま今育休中で休んでるが国家資格を持つ 女性なんだ。 経済的には自立できるのだから、いつ逃げられてもしようがないという 認識がお前には不足しているんじゃないのか? 人を苦しめたら己には倍返ってくる、それを忘れるな! 今後私からお前に何かを忠告したり怒ったりすることはない。 私はわたしのやるべきことを粛々とやるのみだ。 母さんにも私の遣り方に賛同してもらっている。 最後にひとつだけ……。 果歩さんを何度も傷つけ苦しめている限り、この先のお前の人生は 終わりだよ」 俺は親父に一方的に押されまくりで反論することも叶わず、 茶の一杯も出されず実家を後にしたのだった。
どうすればいい? どうすれば……。 ここ最近の夫の行動から、毎日このパターンで 女性《おんな》と会っていたと判断できる。 私は即日前回お世話になった興信所に短期決戦で仕事を依頼した。 そしてまたもやグーの音も出ない証拠を持って義両親を訪ねた。 後日、康文は両親に呼び出され厳しく叱責された。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「今日どうしてわざわざここへ呼ばれたのか分かってるのか?」 「なんか喧嘩腰で険悪だなぁ~。 真面目に就活してるし、俺、親父に何かしたっけ? 」 「真面目に就活してるだと? 私たちを舐めるのも大概にしなさい。 お前が例の赴任先の彼女を日本に呼び寄せて会ってることは バレてるんだ。 つい先だっての不祥事なのに全く反省してないようだな。 後先考えず女と現《うつつ》を抜かし、あげく会社もクビになって 情けないお前と別れず、やり直してくれた果歩さんに対して申し訳ない 気持ちはないのか? ないのだろうな。 あったら無職で収入もないのにこんな理不尽なことできるはずないもんなぁ」 康文の父親は興信所からあがってきた証拠となる拡大写真を 何枚も息子の前にパラりパラりとばら撒いた。 流石にそれらを見せられ、康文はひと言の言い訳もできず 無言のまま俯くしかなかった。 「一度のことなら……と、私はお前を信じたいと思っていた。 母さんも果歩さんもきっと同じ気持ちだったんだろうと思う。 だが短期間でこういうことが平気でできてしまうお前を見ていると それが大きな間違いだったと気付いたよ。 悲しいことだがお前は信じるに足らない人間のようだ」 そう話す父、正一の目には涙が薄っすらと滲んでいた。 人生伊達に長年過ごしてきたわけじゃない。 息子のような約束ごとを守れず女にだらしない輩も ちらほら見てきている。 悲しいかな、そういう輩はご多分に漏れず人を騙すことを 何とも思わない。 こと女性関係に至っては、ヤル奴は何度でも過ちを繰り返すと 経験上分かり過ぎるほど分かっていた。 残念ながら我が息子はこの先もチャンスがあれば何度でも浮気を繰り返し 妻子を困らせ悲しませるだろうことも……。 だから深山正一は息子に三行半を突きつけることにした。
そういった変化と共に、不貞腐れて積極的に動こうとしてなかった夫がハロワ通いを始め、会社の面接へ行くからと比較的早くに家を出て夕方に帰宅するようになった。 安心したのも束の間、徐々に帰宅時間が遅くなっていき、それと共に出かけて行く時間も遅くなり、午後から出かけて23時24時帰りが当たり前になっていった。 そして私たちの関係はさほど変わらずにいた。 相変わらず必要最低限の会話しかない。 就活ごときで毎晩深夜のご帰還って? 夫に問い詰めても逆ギレするだけでちゃんとした返事をしてくるとも思えず、私は母親に娘を預けてある日、夫の後をつけてみた。 ハロワにちゃんと入って行った夫の姿を見て胸を撫で下ろした。なのに……14:00-新築高層ビルになっている市役所から徒歩2分の 立地にあるハローワークに入る14:20-出てくる14:30-右手に少し歩いたところで信号待ち。 そして車道を渡り少し右方向に向かいカフェに入る この様子を私は夫が出て行った反対側の路上からこっそりと見ていた。『えーっ! もう休憩するんかいっ。 無職なのにカフェ、無職なのに』 たった20分のハロワ滞在の上に面接もこなしていない。 ついさっき安堵した私の胸に漣《さざなみ》がたった。 ここは一服したいなら、せいぜいが自販機の缶コーヒーだろう、そう思ったから。 無収入で就活している人間でしょ? 妻も子もいる身でどうしてそんなことができるのか。 私はカフェには入らず店の外で待つことにした。 ガラス戸で中と外のオープンスペースとが合体されている店舗は、車道沿いにあり、その上人通りが少ないので助かった。 直接店舗の前ではなく、オープンスペースのある少し店内からは離れた場所から夫の様子を伺った。 上手い具合に夫の座った席は私からよく見える。 不自然にならないよう店舗のオープンスペース側の前を行ったり来たりしながらcheckした。 そんな私の目の前に、明らかに日本人には見えない若くて綺麗な女性《おんな》が店に現れた。「えっ? 」 胸の中に不安がブァ~っと広がっていった。 私の不安はすぐに現実のものとなった。 夫を見つけた女性《おんな》は、夫と同じ席に迷いなく座った。 すぐにふたりは顔を近づけて恋人のように手を握り合い、イチャ
結果的に夫の職を失わせることになったが私に後悔はなかった。 若い女の子とずっと関係を持たれたままモヤモヤしながら暮らすよりずっとましだ。 私の知りうる限り、初めての浮気だし異国の地でのこと魔が差したのだと思った。 ううん、魔が差したのだと思いたかった……思い込もうとした。 こんなことをされてもまだ、私は夫のことを嫌いになれなかったから。 弁護士さんから言われたことが耳に残ってる。 「奥さん、相手の女と手を切らせるためとはいえ、今回ご主人の退職が引き換えになってしまい落胆も半端ないかもしれませんが……私はまだまだ良かったと思いますよ、この結果について。 実際会社の要望に従ってさまざまな国に配置させられる商社マンにはこの手のトラブルは世間で知られているよりもずっと多いんですよ。 そしてあちらの若い女性との遊びが遊びで終わらず、悲惨な結末を迎えて人生を某に振った商社マンがごまんといます。 深山さんの場合は奥さんが比較的早期に気付かれて、しかも証拠もぐうの音も出ないほどしっかり押さえられていて解決まで持って行くのが簡単でしたからね。 相手の女に子供でもできてしまってたら、更に混迷を深めてましたでしょうし。 ま、こんな言い方は慰めにもならんでしょうけど、それでもやはり不幸中の幸いでしたね」 その時に聞いたのだけれど、夫の会社に凸《突撃》したのは私だけではなかったようでこれまでに過去3回ほど同じようなことがあったようだ。 最悪だったパターンは、現地の女性《女の子》が本気になってしまい、妻が気付いて弁護士事務所に駆け込んだことで男から別れ話が出ると、その女性が自殺してしまったのだとか。 その時は会社がその男性社員に相当な懲罰を与えたらしい。 懲戒解雇はもちろんのこと、企業イメージを損なわせ損害を蒙らせたので、慰謝料取られた上での首だったそうな。 ◇ ◇ ◇ ◇ 反省? 反省という言葉はないのだな? 反省という言葉を持たぬ俺様な夫は言い放つ。*「どうしてこんなことしたの? クビだよ? 俺。 どんな思いで入った会社だと思ってんの。 ただの遊びなんだからさぁ、俺の気持ちが落ち着くまで待ってくれりゃあよかったんだよ。 飽きたら、やめたのに……」 はぁー! 呆れるばかりの言
そして帰国したところで会社は即刻夫を処罰した。 早い段階での発覚と相手側の女性との間でトラブルになっていないこと、まだ若く将来の芽を潰すのは忍びないとのこと等で懲戒免職は免れ、情状酌量されての諭旨退職となった。 そして退職が決まったその足で、すぐに翌日義両親と夫そして私とで弁護士を挟んで慰謝料の話に駒が進められた。 離婚するともなんとも決めてもいない、決まってもいないのに慰謝料請求の話に、義両親も夫も最初何を要求されているのか理解できずポカンとしていた。 弁護士から丁寧な説明を受けて理解してもらった。「果歩、いきなりどういうこと? 俺が会社辞めさせられたのも、もしかして君のせい? 」「深山さん、あなたの解雇は奥さんのせいではなくてあなた自身が原因ですから、そのような質問は控えてください」「な、果歩……慰謝料って?俺がなんで果歩に払わなきゃいけないんだよ」「私を騙して裏切ったから……だから……。 本当に反省しているのなら、私にその誠意を見せてほしい」 「俺……」 「もう、言い逃れは止めて。 証拠は揃ってるの、揃ってるから会社もあなたを処罰したの。 ご両親の前だけど、証拠見てもらいましょうか? 」 私は自分が撮っていた画像をプリントアウトしたもの数枚とぐうの音も出ない女とのツーショットの写真を彼ら3人の目の前にばら撒くようにして、報告書と共に置いた。 お義母さんは青褪めていた。 義父はひと言 「おまえ……なんてことを……」 弁護士が言った。「奥さんへの謝罪はないのですか? 」 ◇ ◇ ◇ ◇ 敏腕弁護士のリードで義両親と夫からの謝罪を受け、そして慰謝料の支払いも確定した。 これで何もかも解決できたとは思っていない。 離婚せずこのまま結婚生活を続けていくには、私自身多大な努力を要し、さまざまな葛藤を抱えることになるだろう。 私だってまだ若い。 だが夫が遊んだ相手の女子《こ》は17才だったと聞く。 写真でしか見てないけれど、大人っぽい化粧はしているもののずばり、まだ子供だった。 若くてしなやかな肢体を知ってしまった夫は本当の意味で私の元へ帰ってくるのだろうか。 嘘つきなこの夫《おとこ》を信じられる日は来ないだろうしおそらくこれからの日々、毎日葛藤の日々が続
なさけないことに、正直夫への未練がまだある。 それと娘を抱えてシングルマザーで生きていくことへの不安もあって、 気持ちはグタグダ。 果歩、なにやってんの? しっかりするのよ。 あなたにはちゃんとした仕事がある。 娘もいて、独りじゃないのよ。 最悪を考えて行動したって怖いものなんかないよ。 大丈夫……だいじょうぶだから。 Jumpするのよ、しっかりなさい!! 私は不安を払拭するべく、自分を鼓舞した。 ここまでコケにされてるのに、泣き寝入りして 愛人なんか作られたまま、世間を取り繕って生きていくつもり? 妻を舐めてたらどういうことになるか 目にもの見せてくれるわ(ぃ)。 フンガァ~ 鼻息荒く私は遠く離れたところにいる裏切り者へ向けて息巻いた。 海外にも事務所を構えているという興信所に依頼した。 興信所もグローバル化しているようで助かる。 こちらからわざわざ人を派遣するとなると、それだけ経費が 跳ね上がると思うから。 同棲しているので調査は短期間であっけなく片がついた。 証拠が揃っちゃったんだよね……予想を超える速度で。 私は弁護士を雇い、夫の会社の上司そして義両親等 話し合いの席に同行してもらい解決を図った。 私ひとりでは会社に対して上手く説明できるか自信がなかったし義両親に 対しても100%息子のことを謝罪してくれるかどうかも自信がなかったので 弁護士に対応をお願いした。 義両親に息子の浮気は嫁のせい、なんて非難&擁護された日には 立ち直れそうになかった。 また企業によっては、浮気ごときでホニャララ、そんなもん あんたたちで勝手にしてよぉ~っていうところもあると聞いた ことがあったので。 ほんと私って石橋叩いて亘るタイプ。 世間というものは弱い者叩きする輩が一定数いることを知ってるから 保険をかけた。 弁護士の力は偉大だ。 それと元々夫の勤める総合商社には、そういう揉め事が必ず年単位で昔から ぽろぽろあるようで、専門対策チームじゃないけれどそういうことを専門に 対応している部署と担当者がいた。 そのため、会社の対応は素早かった。 即刻夫には帰国命令が出された。 それは一時帰国ではなく、身辺整理をしての完全撤収型帰国命令だった。 万が一